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Presentation2024.07.04

We made two poster presentations at 27th annual meeting of the Association for the Scientific Study of Consciousness.

2024年7月2-5日に、東京大学でASSC (意識科学学会) の大会が行われました。ASSCは、哲学者のDavid Chcalmersらを中心に設立された国際学会で、意識の解明に対する科学的、哲学的探究をテーマにしています。


Chalmersは、認知論に基づく機能主義的な心の研究において、主観的体験ないし現象学的意識が解明困難な「ハードプロブレム(困難な問題)」になることを指摘しました。この思想を踏まえて、意識の探求を哲学的のみならず科学的な心の研究の中核に据えようとしたところから、この学会が始まっています。現在では、認知神経科学などの従来的な実験的研究や理論的研究も多く取り入れられるようになり、やや本来の焦点が拡散している感もありますが、年々参加者も増えて発展を続けているようです。


今回は日本での開催ということもあり、宮田研究室からも宮田と山崎がそれぞれポスター発表を行いました。


宮田は、哲学分野で、クオリア問題への東洋的アプローチに関する考察を発表しました。脳と心の働きを科学的方法で三人称的に記述した際に、クオリアすなわち一人称的な主観的体験をどうしても明らかにすることができない、というがクオリア問題です。しかしながら、西田幾多郎が『禅の研究』言うような主客未分の「純粋経験」から出発して、思惟すなわち二元論的分節化を経て、それらの高次な統合である「知的直観」に到達すれば、もやは主客の二元的な峻別に基づくクオリア問題は消滅すると考えられます。このようなハードプロブレムの「高次な消滅」は、禅宗の「公案」の解決とも非常に類似性があると考えることができます。こうしたことから、クオリアは西洋の心の研究では頻出する問題である一方、身体的実践をベースにした東洋思想では歴史的にもほとんど問題にされることがなかったともいえそうです。


Miyata, H. (2024). An Eastern approach to the qualia problem: Proposing a 4-stage model on the development of consciousness. ASSC27: Association for the Scientific Study of Consciousness. P-2-4. The University of Tokyo, Tokyo. July 2-5, 2024 (presentation: July 3, 2024).

また山崎は、反すうによる心理的健康への悪影響を特性としてのセルフ・コンパッションの因子が調整していることを示す、調査研究の内容に関して発表を行いました。

Yamasaki, K., Sampei, A., & Miyata, H. (2024). Private self-consciousness and psychological health in Japanese university students: Moderating roles of self-compassion. ASSC27: Association for the Scientific Study of Consciousness. P-3-52. The University of Tokyo, Tokyo, Japan. July 2-5, 2024 (presentation: July 4, 2024).


会議では、哲学者のDaniel Denettが今年4月に逝去したことを受けて、追悼セッションも開かれていました。Chalmersらもセッションで登壇して、学者同士のフランクな交流について紹介し、Denettを偲んでいました。Denettは、心理学、脳科学の研究者にとっても、「心の理論」研究における誤信念課題のアイデアの提案などで馴染みの深い学者です。東洋思想と親和的とはいえないかもしれませんが、世界の知的な最高峰に位置する巨人には違いありません。世界中の研究者が別れを惜しんで黙祷を捧げる、貴重な場に居合わせたと思います。

この記事を書いた人
Hiromitsu Miyata
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