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Presentation2025.03.09

Professor Miyata gave a lecture at the Self-Consciousness Research Society

2025年3月9日に、自己意識研究会が大阪市内の会場で行われ、宮田が講演を行いました。タイトルは「東洋的ボディワークにみる心身観と自己──「霊性」に基づく心の科学研究の見地から──」です。


主には東洋的ボディワークにみられる心身観ないし自己観を踏まえて、心理学における行動主義や認知論では捉えることの難しい「霊性」に基づく心の科学研究を構想することについての着想を話しました。研究室で行っているいくつかの実証研究の紹介も合わせて行いました。


大学の先生などを中心に、10名余りの方が参加してくださいました。基本的に従来の心理学にはない話であるため、以下のような多種多様な、しかしいずれも興味深い洞察に基づく議論を出していただくことが出来ました。


・行動主義を乗り越えようとしている試み。人間自体をどうとらえるかの根幹問題であり、大いに可能性がある。

・これは心理学といえるのか?考え自体が雲散霧消するようなことにならないのか?

・偈文やお経を読み上げる実践における、言語理解の要素とそれ以外の要素(発声、時間を取ること自体など)の心理的効果について

・スポーツや芸道における身体技法を他者に伝達する際の、言語化の要素と非言語的要素の関係性、個々の伝達者による伝え方と非伝達者への伝わり方の違いなど


以下が講演の概要です。

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心を探求する科学としての実験心理学や認知科学では,20世紀半ばの認知革命以来,情報処理系としての人間とそれにおける自己をモデル化することを中核として,多くの実証的,理論的研究が進められてきました。一方で,禅仏教や武道,ヨーガなどの東洋の伝統に基づくボディワーク (心身修養) では,修行や稽古といった身体的な実践を通して,分析的に捉えることが可能な表層レベルでの自己を消滅させ,より深層の本質的自己である「真我(我なき我)」を体得することを理想としています。こうした「真我」が立ち現れる領域では,自己と他者,主観と客観,自己の内部と外部といった二元論的な境界ないし区分が消滅し,創造的で高い水準の心的境地や遂行が実現されると考えられます。こうした境地は,禅仏教における「心身一如」「自由無碍 (融通無碍)」,武道や茶道における「剣禅一如」「茶禅一味」,鈴木大拙における「日本的霊性」,西田哲学における「無の場所」「絶対矛盾的自己同一」など,歴史上さまざまな表現で言及されてきました。このような東洋的な実践に基礎づけられた自己観は,熟達者個人の体験に収束しがちであるため,従来多くの場合は人文学的な言説にとどまり,科学研究との接合が難しい面がありました。しかしながら,マインドフルネスや瞑想,さらには霊性(スピリチュアリティ)や宗教をテーマとした実証研究が多く蓄積されつつある現代の心理学では,一人称的な実践と科学研究との融合により,新たな心の科学的探究の地平を切り拓いていく素地が整いつつあるといえます。


本研究会では,東洋の伝統的なボディワークとそれにみられる心身観を基礎とした,身体心理学/ソマティック心理学といった比較的新しい心理学の潮流を紹介し,それらに基づいて,東洋的心身観に基づく自己の捉え方や,意識やクオリアといった哲学的問題への東洋的アプローチ,さらにはそれらを包括する「東洋科学/霊性科学」のパラダイムの確立に向けた構想などにも,展望を拡げてみたいと思います。

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この記事を書いた人
Hiromitsu Miyata
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