Research
Eastern Mind-Body Practice
What is Eastern mind-body practice (bodywork)?
東洋的実践、ないしボディワークという概念は、「心身医学、東洋医学的見地に基づいて、生体の反応を全体的・統合的に観察し、心身の調和、気づきなど健康増進を目指す技法」と捉えられています (河野・春木, 2006)。東洋のボディワークの特徴としては、仏教などの宗教的修行に起源を持ち、瞑想を通した悟りや、解脱の会得を究極目標としていることが挙げられます。 このような高度な境地に到達するための方法論として、東洋の歴史のなかで、さまざまな具体的な実践方法の体系が開発されてきました。
たとえば「武道 (martial arts)」は、剣術、空手、弓道、合気道など多くの種類の実践を含み、歴史的には戦闘の技術として開発されてきた体技の体系です。しかし現代では、戦闘の手段としての武道の意義は多くの場合に失われています。現代の武道は「型」の稽古を通して、「今、ここ」の身体のあり方、禅的な境地、または世界と相和した私たちの生き方そのものを追求する活動と捉えることができます。
また「ヨーガ (yoga)」は、現代では健康やフィットネスを目的とした運動としても流行していますが、もとは仏教以前からインドで実践されてきた修行の体系です。伝統的なヨーガでは、自分の身体と心を観察するために坐法 (アーサナ) や呼吸法 (プラーナヤーマ) を行いますが、そこから瞑想を深めていき、サマーディ (悟り) に至ることを目指します。
ヨーガは現在も進化を遂げています。楽しいことがなくてもまず笑いを作ってみるという「無条件の笑い」を取り入れた「笑いヨガ (laughter yoga)」は、「笑いの体操」とヨガの呼吸法を組み合わせた実践です。1995年にインドで始められて以来、老若男女が実践できるすぐれた健康法として、日本を含む世界各国で実践されています。
これらの他にも、日本の歴史的な宗教の中で実践されてきたさまざまな形のボディワークがあります。日本独自の山岳宗教である修験道や、天台宗比叡山と奈良の大峰山に伝わっている千日回峰行、坐禅や作務を含む禅宗の修行などです。また現代では、丹田呼吸法などの要素を取り入れた速読の訓練体系である「朴-佐々木式速読法」も開発されています。
これらの実践は、一見すると別々のもののように見えますが、いずれも呼吸や身体への気づきを基礎にして瞑想的な実践を行い、心身の統合や調和を図っていくという点で、本質的な共通性があるとも捉えられます。
Integration of Eastern mind-body practices and the science of mind
このような東洋的実践には、元々、現代の科学的な世界観よりも高い精神性が含まれていたともいえます。それでは、このような実践の世界を現代の科学で捉えることには限界があるのでしょうか。「身体心理学」の視点を踏まえれば、武道、ヨーガ、仏教・修験道など、身体の観察をベースにした東洋的実践によって心身がどのように変容するか、心理学や脳神経科学などの方法を使って研究していくことができると考えらえます。そしてその根底にある理論は、分析以前の純粋状態に立ち戻って、それらと分析的な世界とを統合していくという、東洋の歴史の中で大切にされてきた実践的な心身観です。
このように東洋的なものと西洋的なものを融合していくことによって、客観と主観、論理と直感・感性、科学と芸術・文学などのどちらにも偏らない、調和した人間理解が可能になると考えています。このような統合的な人間観は、心理学や脳科学だけでなく、より広く現代の科学技術全般や社会全体に必要とされているのではないでしょうか。そのような地点から構想される学術を、西洋科学と対置する意味で「東洋科学 (Eastern science)」と呼んでみたいと思います。